井上雄彦 漫画展レポ2 -死生観-

ようやく夏の日差しと飛んでくる蜂から開放され(笑)、入り口をくぐると
まず初っ端から武蔵の巨大な墨絵が威風堂々と訪れた観客を射竦めます。
そこから随所に墨絵の巨大なパネルや、漫画のコマを切り取ったくらいの
サイズのパネル、千切った和紙に描かれた絵、漫画のコマから飛び出した
構成で壁に直に描かれた絵、それらの全体的な流れを通して微に入り細に
入りのミクロ視点から、感情や衝動を墨の飛沫に乗せた哲学的マクロ視点
に渡る形で、時に繊細に、時に大胆に、霊厳洞に篭って「五輪書」を完成させ、
62歳で逝去する際の武蔵の終の姿が実に見事な筆致で描かれて行きます。

生涯で60回以上の他流試合を行い、内7人を死に至らしめた彼が、死の
際で自分に強く影響を与えた今は亡き人々の幻影(というよりは、己の別の
側面と捉えた方が理解しやすいと思います)と対話しながら、生涯をかけて
自分がこだわり続けた『強さ』『勝つ事の意味』と向き合って行くのですが、
私的見解だけで話を進めさせて頂くと、結局彼が行き着いた強さや勝つ事
の意味の先に在ったものは、『自分の弱さを否定する為の、心の「よすが」
としての強さ』
であり、『そんな弱い自分を討ち消す為の戦いを続けてきた
という意味』
でしかなかった事を悟り、では自分がひたすら求め続けてきた
『真の強さ』とは一体何であったのか?との最後の問いかけの中で、彼は己の
弱さを受け入れる事、その事実を克服する事で初めて己に討ち克ち、恐怖
心からずっと手放す事の出来なかった移行対象としての武器(弱さの象徴)を
手放す事で、克巳という死線上の向こう。彼岸の彼方に位置する強さと、我
知らぬままにずっと求め続けてきた平安をようやく得ます。

泥の中から立ち上がり、自分を常に奮い立たせる為に否定してきた弱さ。
人を愛する事、母親を想う事、他者に負ける事、弱い自分を許す事・・・
そうした様々を許し、受け入れ、己に討ち克ち、武蔵はようやく訪れた真
の安息の中で永い眠りにつきます──


他者の命を奪う事。それが己の命を守る為という正当性は持たないまでも、
人の命を奪う事に何らかの意味が在った時代。またその死生観を描いて行
く事で、井上雄彦氏が真に描きたかった事とは何であったのか?
そして『最後の漫画展』の「最後」が意味する事とは一体何だったのか?
2008-06-29 : INSIDE VIEW : コメント : 0 :
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